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菩提樹の下で

  • 執筆者の写真: 恵琳
    恵琳
  • 2021年12月20日
  • 読了時間: 3分

更新日:2022年5月10日

(これはNo37304/伊藤真世さんという漫画家の方の作品『くちばしに毒薬を』の二次創作です)


 エリカ・フランクフルターは誰にも言えない恋をした。彼女は大恐慌前のある夏、連れ合いのヨハネス・ウェルトハイムとともにドイツ共産党の集会の手伝いの為にベルリンに赴いた。強い日差しの中、会場に向かってヨハネスとともに菩提樹通りを歩いていた時、木陰に物憂げにたたずむ褐色肌の少女を見初めたのだった。

 彼女はなぜか本来属せないはずのヒトラー・ユーゲントの制服を着ていて、周りに制服姿の子どもは誰もいなかった。そしてエリカは、そんな彼女が日々嘗めているであろう辛酸を想うと、目の奥にじわっと温かい痛みを感じた。彼女はどうしてヒトラー・ユーゲントの制服を着ているのだろう。無理矢理着せられているのだろうか。きっと肌の色ゆえに壮絶ないじめを受けているのだろう。だからあんなに物憂げなのだ。

 彼女は横を歩いていたヨハネスにこう尋ねた。

「ねえ、ヨハネス、黒人はヒトラー・ユーゲントに入れるの?」

 するとヨハネスは不機嫌そうに言った。

「馬鹿か、入れるわけないだろ!」

「でもあの子、ヒトラー・ユーゲントの服を着てるわ」

「どこだよ」

「ほら、あそこ……」

 そう言ってエリカは少女の方を指さした。ヨハネスは少女を見ると、目を丸くして「え? なんでドイツに黒ん坊が? おかしいだろ! アフリカに帰れよ!」と言い捨てた。エリカは「黒ん坊なんて大きな声で言わないで!それと『アフリカに帰れ』って言うなら、あんたもオランダに帰りなさいよ!」とヨハネスの無理解を責めた。しかしヨハネスは「そんな、言葉狩りはやめろよ! くだらない! オランダには帰らないぞ!」と頑として自分の過ちを認めない。

 エリカは腹立たしいやら悲しいやらで、どうしようもなくなって、「あんたなんか共産主義者失格よ!」とヨハネスを突き倒し、少女のもとへ駆け寄り、抱きしめた。

 二人は菩提樹の木の下で、しくしくと温かい涙を流した。すぐそばに冷たい魔の手が迫っているとも知らずに……。




 戦後四半世紀が経ち、豊かな文明を謳歌するニューヨーク。この街の一角で、一人の男が一心不乱に紙の上にペンを走らせていた。彼の名は、ヨハネス・ウェルトハイム。とある大手出版社の編集者から頼まれて、黒人少女と抱き合ったユダヤ系ドイツ人の共産主義者エリカ・フランクフルターの事を書いているのだ。

あの日、二人は菩提樹の木の下でナチの暴漢に襲われて殺された。運よくヨハネスはニューヨーク行きの船で亡命できたし、優しい妻と再婚もしたが、心に空いた暗く深い深淵は決して埋まりはしない。

 ふと、あの夏に吐いた悍ましい言葉を思い出し、ヨハネスの胸はキリキリと痛んだ。口から嗚咽が漏れ、視界がぼやけて、紙に雫が落ち、ペンで書いた字がにじんだ。それでも彼は生き延びた者として書かねばならない。二人を語り伝えるために。二人の事が忘れ去られてしまわないように。

 
 
 

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