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太宰治のこと

  • 執筆者の写真: 恵琳
    恵琳
  • 2022年11月21日
  • 読了時間: 4分

実は私は、中二〜高一頃までは太宰治の大ファンでした。その頃集めた太宰本のコレクションを先日実家の父が見つけて持ってきてくれて、ブームが再燃しました。

中2といえば、私がヒトラーを好きになった頃です。私は中二の秋の歴史の授業でヒトラーについて習い、「この人は私と同じように人を差別していたんだ、自分だけが特別に悪いと思ってたけどそうじゃないんだ」という安堵感を覚え、好きになったのでした。しかし心には常に「あんな極悪人を好きになるなんて人として最低だ」という重い罪悪感がのしかかっていました。そして瞼の裏にヒトラーが浮かぶたびに、心の中で必死に死ね死ね言って打ち消していました。

そんな苦しい秋か冬の頃、今は亡き父方の祖母に『人間失格』を勧められました。彼女は同人作家で、いくつかの同人誌に小説を発表し、作品集も出版していました。そして私は彼女から、赤と黒のおどろおどろしい表紙をした薄い文庫本を手渡され、言われるがままに読み始めました。

主人公の葉蔵は、幼い頃から人間不信に陥り、理解不能で怖くてたまらない人間たちに対する「サーヴィス」「求愛」として、お道化を演じるようになりました。当時の私は彼の心理がいまいち理解できなかったのですが、最近少し冒頭を読んでみたら、「うわあ……この人すごいこと書いたはるなあ……」と驚嘆しました。

私の「ズレ」は彼の「ズレ」とは違いますが、やはり私も世間の人とは感覚がズレています。だから人間関係でトラブルを起こし続け、怒られ続け、加害のトラウマで夜も眠れぬほど苦しむのです。

しかしとにかく当時の私には、葉蔵の心理が理解できませんでした。

そしてその年の年末年始のいつかに祖母、母、弟と四人で中心街の大きな本屋に出かけたとき、祖母に太宰の『走れメロス』(新潮文庫)を勧められ、買ってもらいました。その短編集はとても気に入り、喜んで読みました。文章は難しかったですが、『走れメロス』『駈込み訴え』は大好きで、冒頭は今でも暗唱できるくらいです。

それから私は、高一まで太宰の本を買い集め、時には父にせがんで買ってもらい、読み耽りました。彼の言葉の中には私の心の暗部に鋭く突き刺さるものもあり、読みながら泣いたこともありましたが、それでも頑張って読んでいました。

しかし『二十世紀旗手』を読んでいた高一ぐらいの頃、リビングで兄が母にこう言っているのが聞こえました。

「太宰治みたいな、暗くて内向的な文学は読まん方がいい」

当時フランクルに感化されていた兄は、彼の「自分の内側ばかり覗き込むのはやめて、『自分は人生から何を求められているのか』を考えよ」という思想に影響されて、あのようなことを言ったのだと思います。

私はその言葉に影響されて、太宰の本を読むのをやめました。おそらく当時の私は太宰の言葉に傷つきすぎて疲れており、支援学校高等部に通いながら難しい本を読んだら、ただでさえ見下してしまっている他の同級生をさらに見下すことになると思ったのでしょう。

それから長らく太宰からは遠のいていましたが、最近になって実家の父が「あんたの太宰の本見っけたで。捨てたと思ってたけど」と言ってきました。私は思わず歓声を上げました。そして私の今いる家に太宰本のダンボールを車で運んできてもらいました。

ダンボールを開けてみると、そこには太宰関連の文庫本が十数冊と、『太宰治・坂口安吾の世界 反逆のエチカ』などの本が入っていました。なんとその中には、小六から中学生にかけて好きだった源義経関連の本も入っていて、宝の山だと思いました。

そして読みかけだった『二十世紀旗手』を読み切り、今は『惜別』所収の『右大臣実朝』を読んでいます。


ヒトラーと太宰は一応同時代人なので、太宰の小説にもヒトラーは出てきます。今まで読んだ中では『正義と微笑』『十五年間』の二編にヒトラーの記述がありました。当時ヒトラーを強く恐れていた私は、大好きな太宰の小説の中にそんなトラウマワードが出てくるたびに、恐怖でブルブル震えたものです。今はそうならないという自信がありますが。どうやら私は「ヒトラー」という言葉に慣れてしまったようです。良いことか悪いことかはわかりませんが。


ところで、兄は「太宰治の文学は読まん方がいい」と言っていましたが、彼は彼で、太宰治のことを個人的に調べていたようですし、高校の模試か何かに太宰の『故郷』という短編が出たときは母に報告していました。また、「太宰治は芥川賞獲られへんかったけど、太宰治を尊敬してる綿矢りさは芥川賞獲ったんやな。なんというか、皮肉というか」とも母に言っていました。

結局彼は私のことを「頭が悪い」「洗面所で妹と同じタオルを使いたくない」などと毛嫌いしながらも、私に興味は持っていたようです。兄に何らかの影響を及ぼせたという事実が、私を嬉しくさせます。なんだかあの気難しい兄に一部だけでも認められているかのような気持ちになるのです。幼い頃から兄には対抗心を燃やしていましたから……しょうもない感情かもしれませんが。

 
 
 

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