
太宰治『ア、秋』感想
- 恵琳
- 2023年2月19日
- 読了時間: 1分
太宰治の『ア、秋』(新潮文庫『津軽通信』所収)という掌編を読み終えた。
「秋」とスマホで打つと、変換候補にあの人の名前が出てきて、笑ってしまった。割れるような大笑いだ。私はあの人に、市場の蝿のように毛嫌いされているのに、まだ好いているようだ。呆れる。なんと執念深い女か。一度に何人でも恋うてしまう質らしい。
私にはもひとり、好きな人がいて、T先生という大学准教授なのだが、その人が私の一番好きな人なのだ。しかしT先生は、私を毛嫌いしているあの人の親友だ。
T先生のお説に触れたくても、そのお説はあの人の御本の中に入っているから、私は怖くて読めない。あの人の名前に、いたたまれぬほどの恐怖を覚えて、震え上がるのだ。
そういえば、先程読んだ太宰の掌編、終わりの方にこんな一文があった。
――緒方サンニハ、子供サンガアッタネ。
私はあの人を思い出して、辛いような、慕わしいような、滑稽なような気持ちになって、乾いた笑い声を立てた。あの人にも娘さんがいるのだ。私はあの人の娘さんのことをブログに勝手に書いたことで、あの人に決定的に嫌われてしまったのだ。
あの人に振り向いてもらいたくても無駄だろう。声をかける事そのものが、あの人を傷つけることになる。
太宰の本を読んでいると、不思議なことが起こるものだ。
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