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ワルシャワ・ゲットーの少年

  • 執筆者の写真: 恵琳
    恵琳
  • 2022年1月26日
  • 読了時間: 3分

更新日:2022年1月27日

 1942年6月 ワルシャワ・ゲットー


 3日前から何も食べていない。僕はすごく腹ぺこで、悲しくて、イライラしていた。

 僕は幼い妹のリーナを背負って、ゲットー中のゴミ箱を漁って食べ物を探している。お母さんとお父さんが家に帰ってくる日没までに見つけ出さないといけない。しかしなかなか見つからない。他の人たちに先を越されてしまったようだ。日はすっかり傾いて、僕の影は長くなっていた。

 お腹には食べ物の代わりに、どす黒いマグマのような怒りが溜まっていた。僕たちユダヤ人をこんなスラムみたいな場所に押し込んだナチ野郎共への怒りだ。そしてお腹が空いているから、胸を締め付けるような悲しみと飢えも感じる。お母さんを求めるように、僕は食べ物を求めていた。そういうごちゃまぜの感情が、僕の足を動かし、食べ物を探す力となっていた。

 死んでたまるか! あんな奴らに殺されてたまるか! ユダヤ人は何も悪くない! なんとしてでも生き延びてやる!

 でも悲しいことに、ゲットーにいる同じユダヤ人にも心のなかで悪態をついてしまった。

 あいつら、僕より先に食べ物を見つけやがって! お前ら子供のことも考えろよな! くそったれ! 自分しか見えてないのか? どうなんだよ?

 途中から僕はおいおい声を上げて泣いてしまった。同じユダヤ人なのに、どうしてこうやって憎まないといけないのか。一体神様は何がしたいのだろう? 僕らを憎み合わせて何がしたいのだろう? 神様はこうなることを望んでいらっしゃったのか? ふざけるな!

 僕は道路に棒立ちになって絶叫し、狼のように泣いた。吠えた。するとどこかから「うるせえガキ!」と鋭い声が聞こえた。僕の心臓は跳ね上がった。

 声の方を見ると、不良っぽいお兄ちゃんが腕組みして立っていて、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

「泣いたって始まらんだろう! 黙っとれガキ!」

 僕は更に泣きたくなったが、手を口の中に突っ込み、指を噛んでなんとかこらえた。これ以上泣き叫んだら殺されると思ったのだ。ユダヤ人同士でけんかせねばならないなんてつらすぎる。

 お兄ちゃんは地面につばを吐いて、どこかへ歩いていった。通行人はみんな僕の方をジロジロ見た。でも決して立ち止まって「どうしたの?」なんて訊かなかった。冷たい人たちだ……。

 指からは少し血が出ていた。背中に背負った妹は、もはや生きているのか死んでいるのかすらわからない。「おい、リーナ、生きてるか?」と僕は訊いてみた。背中のリーナを少し揺すって、また「リーナ?」と訊いてみた。しかし返事がない。

 寝ているのかな。寝ていると思いたい。でも死んでいるかも……?

 お腹の中のマグマが、すうっと冷えた。

 生きているのか死んでいるのか、本当のことなんか知りたくない。でも……。

 僕は恐る恐る抱っこ紐を外して、リーナを抱えた――今まで僕が背負っていたのは、青ざめた顔と紫の唇の、死んだ女の子だった。


 僕はまた絶叫し、何もわからなくなった。何もかもどうでもよくなった……生きているのか、死んでいるのかさえも。

 
 
 

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