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ハッカ飴(妄想短編)

  • 執筆者の写真: 恵琳
    恵琳
  • 2021年12月5日
  • 読了時間: 6分

更新日:2021年12月12日

※浅学の徒が書いたものですので、間違い等あると思います。発見された方はコメント欄でご報告ください。この話は単なる妄想です。ご注意ください。


1942年11月 東プロイセン ヴォルフスシャンツェ


「ゲッベルス、ちょっとええか」  総統はんの低く心地良い囁きが耳をくすぐったので、ワテの心は沸き立った。興奮を必死に抑えて言う。 「へえ、なんでっしゃろか」 「わしの部屋に来てくれるか」 「なぜでっしゃろか」  総統はんはそれには答えず、大きな右手でワテの左手を握って引っ張って行かはる。ワテは「あわわ……」とびっくりしながら、興奮のあまり冷たくなったワテの手を握る総統はんの手の温かさを感じ、耳が赤くなるのが分かった。廊下にワテらのコツコツという心地良い靴音が響き、ワテは酔うた。総統はんはワテをほんまに可愛がってくれはる。まさにこのドイツの総統はんにふさわしいお方や。そんなお方に愛されたワテはほんまに幸せや……自然と頬がほころぶ。しかしすぐに別の暗い思いが頭をよぎった。

 さっきワテどもは、東方における我が軍の苦戦ぶりを嫌というほど聞かされた。当然ながらソ連の冬はこちらとは比べ物にならへんほど寒い。ワテは毎日がくがく震えながら暖かいベッドを名残惜しく後にするが、ソ連で戦っている兵士たちにはベッドなんかあらへん。しかし、彼らは我がドイツの為に戦う駒。稲妻のごとく猛く激しく戦って、総統はんの本望を遂げなあかん。弱音を吐いとる暇はあらへん。  報告が終わった後、各々が各々の場所に散らばっていく。ゲーリングは今日も腹肉ぶよぶよで、ヒムラーは東方の帝のような顔で、リッベントロップは眉間に深い皺を刻み、皆がシベリアの大気のように冷たい焦燥感を醸し出しとった。  それにしても、あれだけスターリンはんと仲の良かった総統はんがなんで……いいや、奴らは所詮アジアの劣等人種。我々に従属すべき者どもや。総統はんのやることなすことには必ず理由がある。せやから疑うな‼

 さて、そんなことを考えとるうちに、総統はんのお部屋に着いた。 「さあ、入れ」 「なにをしはるんですか?」 「ええから入れ」 「は、はあ、ハイル・ヒットラー」  総統はんはにっこりと微笑み、大きな手でワテの背中を優しく押して中に入らせ、ご自分も中に入られて扉を閉めはった。おまけに鍵もかけはった。そしてぼんやりとしたオレンジ色のランプを点けはって、ベッドの縁に座らはった。一体何をしはるのや。ご内密のお話やろか……?  すると総統はんは急にジャケットを脱ぎだし、ワイシャツ一枚にならはった。たくましいお胸が盛り上がっとった。 「お美しい……」 「そうか、おおきに」  そしておもむろにこない言わはった。 「ゲッベルス、お前のシャツ姿を見てみたい」  ワテは思わず「グ……キ……キ……」と声にならへん笑いが漏れてしもた。「何言うたはるんですか? ワテの体のどこがええんですか」 「ええから見せえ」  そう言う総統はんの目は星のようにキラキラと輝いとる。ワテはその熱く燃える目に見つめられて、従わざるを得なんだ。  ワテがジャケットを脱いで、総統はんの隣に座ると、総統はんはワテの胸元を見てこない言わはった。

「そんなに痩せて大丈夫か?」  さすがに失礼や思て、「大丈夫ですって」という声がちょっととげとげしくなった。総統はんは「ハハハハ……」と笑うと、「まあ当分は大丈夫か」と付け加えてさらに笑った。総統はんにはこういう無神経なところがあらはるから、時々腹が立つ。それでもワテがおそばを離れへんのは……。 「ゲッベルス、やっと見れたわ。よかった」 「どっちなんですか⁉ ワテの体が痩せとったから嫌やったんちゃいますのん?」 「いやいや……」  すると総統はんは急にワテの方に腕を回してきはった。ワテはドキッとして、自分の気持ちを再確認した。  ワテは、総統はんが好きや。  総統はんの目の輝きは炎のようにさらに強く激しくなっとった。立派な狼の目や。ワテは圧倒され、総統はんに口づけされた。次の瞬間、強烈な臭いを感じてワテは「ウッ」とえずいてしもた。総統はんはお気を悪してしもたみたいや。 「なんやゲッベルス、そんなにわしの口は臭いか」  ワテはどう言おうか一瞬迷たけど、「いや、調子が悪うございまして……」と答えた。  総統はんはワテの目を疑り深く見つめたから、ワテも堂々と見返したった。  正直言うと、総統はんはろくに歯を磨かんから、口が強烈に臭い。せやからキスなんかされたら困る。けどそんなん総統はんに言えるわけあらしまへん。 しばらくにらめっこしとったが、総統はんがこない訊かはった。 「ほんまに体調悪いねんな?」  ワテは不安ながらも、目を逸らさんと言うた。 「え、ええ……」 「そうか……ほなハッカ飴でも舐めるか?」 「はい! 総統はんも……」  総統はんもおひとつどないでっしゃろか? と言おうとしたが、そない言うたら総統はんに口が臭いことがばれる。おお、大変や。  しかし総統はんは、「せやな。わしも舐めよか」と言うてくれはった。ワテはホッとして、息をついた。 「ほな、取ってくるわな」  総統はんは立ち上がって、棚からハッカ飴のかんかんを取り出した。そのかんかんを開けて振ると、中から二粒、白い飴が飛び出した。ワテは「おお!」と歓声を上げた。 「なんや、そんなに凄いか」 「ええ、ワテ久々なもんで」 「そうかそうか。これ舐めて元気なり」 「かたじけのう存じます……ハイル・ヒットラー」  そして総統はんからもろた飴を口の中に放り投げた。  スーッとする刺激的な冷たさと甘みを感じて、ワテはソ連戦線を想った。シベリアの大地で電撃のごとく突き進んでいく兵士たち……彼らがあのままモスクワまで陥落させ、スターリンはんを……あれ? なんで総統はんはあんなに仲の良かったスターリンはんを? 冷たい疑念が頭を支配した。なんでや? なんで? 一体なんで味方やった人が敵になるんや? なんで総統はんはそんな悍ましい事ができるんや? 吸う息が震えた。 「どうした、ゲッベルス」  総統はんの優しい声でもその疑念は消えていかなんだ。  ワテは「急用を思い出しましたんで、失礼します。ハイル・ヒットラー」と手短に告げて、部屋を後にした。  寒い廊下を歩きながら、ワテはハッカの冷たさと、愛する人の悍ましさに震えていた。ワテは……ワテは……。

 あ。ジャケットを忘れてしもた。取りに行かな。けどもう取りに行くだけの気力もあらなんだ。もう今晩は総統はんに会う気分やない。寝よう。ワテは自室の扉を開けて、自分のベッドに潜りこんだ。どうすればええんや。ワテはどうすればええんや……。

 マクダと子供らのスースーいう寝息が、たまらなく耳障りやった。ワテは布団を頭まで被った。

 
 
 

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