アイヌの未来は楽観視できるか
- 恵琳
- 2022年9月13日
- 読了時間: 4分
浅学の徒が自説を述べさせていただきます。どうかお許しください。
たった今、言語学者で千葉大学名誉教授の中川裕先生の書いた『NHKテキスト 100分de名著 知里幸恵 アイヌ神謡集』(NHK出版)を読了しました。
アイヌにとってカムイとは自分を取り巻く環境であり、周りの環境=カムイとうまく付き合えば、よく生きられる、と分かりました。和人の私にもすんなり腑に落ちる説明です。
クマもフクロウも囲炉裏の火も水も船も皆カムイです。アイヌとカムイは対等な関係であり、アイヌがしっかり丁寧にカムイの魂をカムイモシリ(カムイの国)に送る儀礼をしてあげないと、飢饉などの災いが起こります。逆にカムイがアイヌに、仕掛け罠を壊すなどのいたずらをすると罰を受けて殺されてしまいます。
結構シビアな世界ですが、きっちりしたルールに基づいて生きれば幸せに暮らせそうです。
また、アイヌの美しいカムイユカラ(カムイが自ら歌う謡。神謡)は、同じ内容のものでも、一度として、コピーのように同じ歌われ方をしないそうです。内容が同じカムイユカラを様々に脚色しながら歌うのです。
また、「サケへ」という神謡の中の折り返し文句(例えば『アイヌ神謡集』所収の『シロカニペ ランラン ピシカン』では「ピシカン」、同書所収『トワトワト』ではそのまま「トワトワト」)には長いものやら短いものやら様々な種類があることも書かれており、カムイユカラの奥深さに触れられました。
また、神謡のサケヘや結末、途中のあらすじも、謡う人や地域や時代によって変わることも分かりました。故・中本ムツ子さんの遺した『アイヌ神謡集をうたう』をぜひ最後まで聴いてみたいです。
その上でこれから厳しいことを申し上げます。
文中で中川先生は、「関根摩耶さん(アイヌ文化紹介ユーチューバー。「しとちゃんねる」管理人)や、OKIさん(樺太アイヌの伝統楽器・トンコリの奏者)やマレウレウ(アイヌ女性ヴォーカルグループ)などの現代アイヌが頑張っているおかげで、知里幸恵の『アイヌ民族が和人と肩を並べる』という願いが叶ってきている」という内容のことを書いていましたが、なんだか楽観的すぎると思います。
なぜなら、アイヌに詳しい元彼が数ヶ月前、こんなふうに嘆いていたからです。
「アイヌの母語はもはや日本語や。今のところアイヌ語話者は中級レベル以上の人がおらん。しかも話者が減ってきてる。アイヌ語をペラペラ喋れる人は今はすごい年寄りで、北海道のどこかの老人ホームに数人程度しかおらんやろう」
こうした話を聞いているだけでも、アイヌの和人化がだいぶ進んでいると感じます。そして、それは私達和人の責任です。私達和人がアイヌの土地に勝手に乗り込んできて、彼らを迫害・侵略したからです。そして自分たちによって侵略された被害民族について真面目に学ばず、言語復興、文化復興、民族復興に充分に力を貸さなかったから、今の危機的状況があるのです。
ちなみに中川先生は漫画『ゴールデンカムイ』の監修をしています。しかし、監修にずさんなところがあり、本来贈り物に感謝する言葉である「ヒンナ」を「美味しい美味しい」というニュアンスで登場人物が使ってしまっています。
次に載せるのは、私が2022年7月11日(ちょうど2ヶ月前)に書いた、『ゴールデンカムイ』に対する批判文です。
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今日ふと思ったのですが、ゴールデンカムイは和人がアイヌを利用する話だなと思いました。
和人がアシリパらアイヌの知恵を利用し、アイヌが何年もかけて集めた金塊を奪い合う話です。
こうして考えてみると、あの漫画はアイヌの人権向上や差別撤廃のことはあまり考えていないのではないかと思います。
作者も結果として、自分の楽しみのためにアイヌを利用しているように思えます。
私は30巻の途中までしか読んでいませんが、最後まで読んで結末を見届けたいと思います。
まあ正直、こんな話はあまり読む気はしないのですが……。
アイヌの将来は決して明るいものではなさそうです。丹菊逸治先生(注:北海道大学アイヌ先住民研究センター准教授。中川先生の弟子)の危機感や絶望がほんの少しわかったような気がします。
もちろん丹菊先生の気持ちを完全に理解することはできませんが、とりあえず『アイヌ民族抵抗史』を少しずつでも読み進めたいです。
『ニューエクスプレス アイヌ語』(白水社)に載っている、アイヌ語の現在を語る中川裕先生の文章からは、全く危機感が伝わってこず、なんだかのほほんとしているので、読んでいて気分が悪いです。
私はまだ無学なので、アイヌの現状に関して詳しいお説は述べられませんが、中川先生よりも丹菊先生のほうが現状を正しく認識していると直感しています。
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すでに『ゴールデンカムイ』を読破した今の私は、あの漫画の最終話の、一番最後のコマの酷さに絶望的な気分になりました。興味のある方はぜひ最後までお読みください。
アイヌの未来はこれからどうなるのでしょうか……。
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