『ヨーロッパ思想入門』読了
- 恵琳
- 2022年11月13日
- 読了時間: 3分
岩田靖夫さんの『ヨーロッパ思想入門』(岩波ジュニア新書)をやっと読んだ。実は第二部の途中までは元彼と一緒に、元彼の解説付きで読んでいたのだが、今年7月末日に絶縁したので、一人で読まねばならなくなった。
それにしても読み応えのある本だった。
筆者によると、ヨーロッパの思想は「ギリシアの思想」と「ヘブライの信仰」という二つの土台の上に立っているという。第一部ではギリシアの神話と哲学を、第二部では旧約・新約聖書を、第三部ではアウグスティヌス以降のヨーロッパ哲学を学んだ。
オッカムやカント、ハイデガーなどに関する記述はいまいち分からなかったが、それ以外の大体の部分はよく理解できた。時には「おぉ〜!」と感嘆し、時にはしくしくと涙を流しながら、私は読み耽った。
古代ギリシアの詩人ホメロスの叙事詩『イリアス』『オデュッセイア』の箇所では、何よりも生を重んじるギリシア人の熱い想いに触れた。
『オデュッセイア』では、戦場で踵を射られて死んだアキレウスがハデスで「死人の王となるよりは、生きて、暮らしの糧もあまりない、土地を持たぬ男の農奴になりたいものだ」と嘆くシーンがあるという。
私は『オデュッセイア』は未読だが、そのシーンの存在は西村賀子さんの『ギリシア神話 神々と英雄に出会う』(中公新書)ですでに知っていた。古代ギリシア人は本当に生きることを愛していたのだなあ、と彼らを眩しく感じた。
また、聖書の教えについて書かれた第二部では、私は何度も涙ぐみ、時にはおいおい泣いた。
特に印象に残ったのはイエスのこの言葉である。
「おまえたちを愛する者たちを愛したとしても、お前たちにどんな善意があるのか。なぜなら、罪人でさえ自分たちを愛してくれる者たちを愛するからである。(中略)おまえたちはお前たちの敵を愛しなさい」
あまりにも素晴らしい金言である。筆者も感動しながら書いていたのではないか。自分に縁もゆかりもない、しかも自分が付き合っても何の得にもならない人を愛せよ、という隣人愛を常に持ち続けていたい。私は阿弥陀仏を信仰する浄土教徒だが、キリスト教の慈悲の思想も非常に素晴らしいものだと感じている。
しかしその一方で、私はキリスト教に抗ったニーチェのことも大好きだ。なぜなら彼は「人間とは乗り越えられるべきなにものかである」と説き、「人間が進化して超人になる」ということを明らかにしたからである。この思想は元彼の「人間が進化して仏になる」という思想とも重なる。
あとちなみに一番最後に紹介されていたレヴィナスも素晴らしかった。筆者はレヴィナスの思想についてこう語る。
「他者は、つねに私の知を超える者、私の把握をすり抜ける者、私の期待を裏切る者、私を比定しうる者である。この意味で、他者は無限なのである」(p.238)
私は今まで生きてきて、様々な人と軋轢を起こしてきた。その中には私に対して絶縁宣言をしてきた人たちもいる。そういう人たちこそ、こちらの勝手な期待を見事に裏切る「他者」と言えるのではないか。
レヴィナスは、そういう他者には、見返りを求めずに仕えるしかないんですよ、と説く。私も思い通りにならない他者に対しては、鬱陶しい干渉は決してせず、距離をちゃんと保っておくべきなのだなあと強く感じる それが彼らに「仕える」ということではないかと思う。
そういう「適切な距離感」を取るのが苦手で、どうしても相手にこだわってバシンとはねつけられてしまうのが、発達障害の辛さではあるのだが。
レヴィナスの思想を学べば、発達障害に起因する私の苦しみも和らぐのではないかと感じる。とにかく、執着しないことだ。
この本に出会えて本当に良かった。カントやハイデガーのことはよく分からなかったので、すでに買ってあるが完読できていない「100分de名著」の『純粋理性批判』の巻と『存在と時間』の巻を読んでみたいと思う。
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