『ナビラとマララ』感想
- 恵琳
- 2022年9月6日
- 読了時間: 4分
中東地域に詳しい研究者・宮田律(みやたおさむ)さんの『ナビラとマララ』(講談社)という本を読みました。

イスラム世界がいかにアメリカなどの欧米列強によって虐げられてきたかがしみじみと分かります。
この本で取り上げられているナビラ・レフマンさんというパキスタンの少女は、米軍のドローンにテロリストと勘違いされ、ミサイルを落とされて大怪我を負いました。
ナビラさんは無事回復しましたが、彼女は祖母のモミナさんを失いました。
彼女はアメリカの下院議員たちに、「ドローン攻撃をやめてください」と訴えましたが、集まった議員はたった5人だけでした。
一方のマララさんは、パキスタン・タリバン運動(TTP)に銃撃されながらも、一命をとりとめ、女子教育の大切さを訴えてノーベル平和賞を受賞しました。
この注目度の差は悲しいくらいハッキリしています。
マララさんを攻撃したのはアメリカの敵であるタリバンなので、アメリカ人から同情されやすく、マララさんはノーベル平和賞までもらえました。
一方で、もしナビラさんの声にアメリカが真剣に耳を傾ければ、アメリカは自国の加害を認めざるを得なくなり、非常にきまりが悪くなります。
これは本当に理不尽だと思います。
私達はマララさんだけでなく、ナビラさんの声もしっかり聴き、世界に戦争の火種を撒き散らすアメリカという国の数え切れない戦争犯罪を追及していくべきです。
それはもちろん、広島と長崎への原爆投下に対する謝罪と補償を米国にきちんとしてもらうことも含みます。
最近の中東での戦争では、米兵はドローンを遠隔操作して多くの罪なき人を殺します。なので、「自分は今人を殺しているんだ……」という生々しい嫌な感触がありません。完全にゲーム感覚です。
なので私はなおさらウォーゲームが嫌いになります。ああいうのは人々を戦争に慣らし、徴兵するためのものではないかとも思えてきます。
もちろん反戦ミリヲタでウォーゲームをやっている人たちもいますが、やはりウォーゲームをきっかけに戦争支持・右翼支持には絶対に回ってほしくないです。ゲームはゲームであり、あくまでストレス解消や気分転換等の範疇にとどめてほしいと思います。実際の戦争や武力行使につなげてほしくないです。
『ナビラとマララ』は子供向けの本ですが、内容は非常に深いです。
中東地域は欧米の列強に、民族分布を無視した不自然なほど真っ直ぐな国境線を勝手に引かれて支配されました。
アフガニスタンは無神論を旨とする共産主義国ソ連に攻め込まれ、人口のほとんどがイスラム教徒であるアフガンの人々はソ連に対して強い憎しみを抱きました。そして結局ソ連による侵攻は失敗し、多くの帰還兵たちがPTSDに悩まされるようになりました。
詳しくはこちらのリンクをご覧ください。
朝日新聞GLOBE+ 2021年8月18日の記事
「旧ソ連を震撼させたアフガニスタン 侵攻失敗、帰還兵はPTSD…そして国家崩壊」
イラクはアメリカから、「あんたら化学兵器を隠し持ってるんだろう?」と濡れ衣を着せられ、「対テロ戦争」の名のもとに攻め込まれました。
アメリカがイラクに攻め込んだのは、「イラクの石油が欲しかったから」、「湾岸戦争の際にイラクのフセイン政権がアメリカの同盟国であるイスラエルに向けてミサイルを撃ったので、イスラエルの安全確保のためフセイン政権を倒したかったから」、「武器産業で儲けたかったから」などの理由が考えられています。
このようにして、数多くの戦争の舞台になってしまった中東の歴史。イスラムやパレスチナの人々に対する迫害や、彼らの非常に強い反米・反イスラエル感情。もう、ぐちゃぐちゃです。
私のとあるムスリムの友人は、イスラエルを強く憎んでいて、「俺は反ユダヤだ」とはっきりと公言しています。それが私にはもどかしくて腹立たしくてなりません。普段はいい人なのに、イスラエルの話題になるとカッカしだすのです。今まで何度も「イスラエルのパレスチナ迫害に反対するのはいいけど、反ユダヤはだめだよ」と言っているのですが……。
どうすればこの憎しみの火種はなくなるのでしょうか。
こういった複雑すぎる歴史や感情――欧米列強によってぐちゃぐちゃにされた中東の歴史やそこに住む人々の感情――のこともこの本には書いてあります。なので、巻末に分かりやすくまとまった年表がないのが非常に残念です。本の内容が素晴らしいだけに、年表さえあればなあと思います。
ナビラさん含め、すべての苦しんでいる人の訴えが公平に聞き届けられ、武器に使う莫大な金を教育に使うことができれば、世界はもっと生きやすくなるはずです。
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