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『アウシュヴィッツのタトゥー係』感想

  • 執筆者の写真: 恵琳
    恵琳
  • 2022年8月26日
  • 読了時間: 4分

この夏『アウシュヴィッツのタトゥー係』(ヘザー・モリス(著)金原瑞人・笹山裕子(訳)双葉社)という本を読んだ。



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主人公の名前はラリ。一九四二年、スロヴァキアからアウシュヴィッツに家畜運搬貨車(この時点で人間扱いされてない!)で運ばれてきたユダヤ人の若者だ。本名はルートヴィッヒ・アイゼンベルク。

アウシュヴィッツに着いた貨車から降りると、ラリは持参した荷物も本もすべて放棄させられ、腕に「32407」というタトゥーを彫られ、自らの固有の名前を蹂躙された。

そして服を脱がされ、髪を剃られ、ソ連の軍服を着せられる。

そして苦しい収容所生活を続けるうちにチフスになり、生死の境をさまよった。皆の看病の甲斐あってなんとか恢復した後、ラリはアウシュヴィッツでユダヤ人たちの腕にタトゥーを入れる男ぺパンからこんな話を持ちかけられる。

「わたしといっしょに仕事をしないかね?」(p.46 後ろから6行目)

その時から、ラリの運命は大きく動き出す。彼は生き延びるために、同胞を裏切り傷つけることを選んだのだった。


そうやってラリが新しく来た被収容者たちに入れ墨を彫りつづけていたある日、一人の美しい娘が彼の前に現れた。ラリは胸を痛めながら彼女の腕にも「4562」と入れ墨を入れる。その一瞬で、二人は恋に落ちた。

彼女の名はギタ・フルマン。同じくスロヴァキア出身のユダヤ人だった。彼女はラリの取り計らいで、アウシュヴィッツの司令部というところで仕事をするようになった。

二人は他の被収容者に比べて安泰な立ち位置におり、食料も多くもらえた。ひもじい一般の被収容者の人たちに食料を分け与えていたとはいえ、彼らからは非常に恨まれていただろうと思う。

しかし二人が四つ葉のクローバーを探したり、情愛の添い寝をしたりするのは本当に美しい光景だった。彼らは極限の状況下で輝く双星の恋人たちだ。二人は「必ず生きて、この地獄を出よう」と固く誓った。


***


ところで、この本の中で気になったことが四つある。

一つ目は、ラリが着せられたのがなぜ青と白の縦縞の服でなく、ソ連の軍服なのかということだ。青白縦縞の服はナチス強制収容所の被収容者を象徴する服であるのに。

移送されてきた時期や被収容者の種類によって服は違うのだろうか。ご存じの方はご教示願いたい。


二つ目は、アウシュヴィッツ収容所所長のルドルフ・ヘス(Rudolf Höss)の風貌の描写だ。本物のルドルフ・ヘスはこんな顔をしている(Wikipedia日本語版より)。


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しかし作中でのヘスの描写はこうなっている。


「角ばった顎に、薄い唇、目の上には太くて黒い眉」(p.20 2-3行目)


これはナチス副総統ルドルフ・ヘス(Rudolf Hess)の風貌である(Wikipedia日本語版より)。


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三つ目は、アウシュヴィッツ収容所にはなぜ四つ葉のクローバーが多かったのかという話だ。被収容者が四つ葉のクローバーを見つけて親衛隊員にあげれば、殴られずに済んだり、食料を多めにもらえたりしたらしい。

一介の植物好きとして、四つ葉のクローバーの集中地域にはどのような特徴があるのか調べてみたところ、以下のようなリンクを見つけた。

毎日小学生新聞 疑問氷解『四つ葉のクローバーはどうしてできる?』


この記事には二つの理由について書かれていた。

①茎についている葉のもとになる部分(原基)が人に踏まれるなどして傷が付き、三つ葉になるはずの部分が割れて四つ葉になったから

②株が突然変異したから

ただ、突然変異についてはわかっていないことが多く、今も研究中とのことだ。

四つ葉のクローバーの集中地域が、沢山の人が行き来して草を踏みしだく場所だとしたら、アウシュヴィッツも自ずとその条件を満たしていると思う。あるいはユダヤ人たちを殺す毒ガス・チクロンBの影響で株が突然変異してしまったのだろうか。


話をもとに戻そう。

四つ目に気になったのは、ラリのこの言葉だ。


「ある国が他の国を脅かすことはある。国は力を持ち、軍隊を持っている。だが、多くの国に散らばっている民族が、誰かを脅かすなんてことがあるのだろうか?」(p.206 後ろから2-4行目)


戦後ユダヤ人は結局イスラエルという国を作り、パレスチナ人を迫害するようになってしまった。イスラエル人はホロコーストの被害者であるにも拘らず、ナクバ(パレスチナ人虐殺)の加害者になってしまったのだった。自分たちの国を持ちたいという切実な願いも無下にしがたいが、だからといって異民族を迫害していいわけがないのだ。

ネタバレになるが、収容所を生き延びたラリとギタは戦後、イスラエル建国運動(シオニズム)を積極的に支援していたという。彼らもパレスチナ人迫害に加担していたのだ。

だから私は二人の物語を単なる美談として片付けることはできない。彼らは沢山の人の恨みを買いながら生き延びてきたのだから。


色々と複雑なこの本、みなさんもぜひ余裕があれば読んでみていただきたい。

 
 
 

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